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声と雑音の間への回顧(下)

声と雑音の間への回顧(上)

『社会科学的な話し』

ところで私は、これでも経済学部は経営学科の四年生である。VOCALOIDというn自創作のための、アメーバのように増殖を続けるこの現象をみて、社会科学的な分析を行いたいと想うのは、ごく自然なことであるように想われる。実際にいくつかこの現象を考察した出版物が見受けられるし、既存のフレーム的な分析を当てはめられないこともない。

その中からとくに、FREE・SHARE・PABLICといったものの分析は、このCGMの分析に際して活用できるものであると想われるし、また、イノベーションとしての分析方法や、総合知的な見方は今更言及する必要が無い程に、この現象の分析手法として活用可能である。また、私はメディチ現象といった言葉があることを知り、その言葉でどの程度CGMというものを説明できるかということに、現在興味を持っている。

そこで、ここからは、UGCを分析可能であると想われるだろう、社会科学的な考え方を少しだけ紹介したい。

『FREE・SHARE・PABLIC』

まずは、FREEを代表した近年注目されている考え方について触れる。ただし、ここでそれら全てを詳細に説明することは不可能であるし、それらが複数の概念を結合してる場合もあるので、キーワード等、意識的にその視点を狭めて簡単に説明していく、つまり、この理論のこの側面が、CGMの分析に使えるのではないかという考え方を提供するにすぎない。

FREEは「非貨幣市場」というキーワードで話そう。無償のコンテンツを提供する代わりに評判・注目といったものを無償で提供してもらうことにより成立する市場のことだ。専門家はこれを「評判経済」と呼ぶ。(あぁ、堅苦しい。専門家というのは概してネーミングセンスというものがない。)簡単に言えばニコニコ動画やYOUTUBEで公開した動画につくコメント・再生数・お気に入り・広告やTwitter上での動画に関するさえずりだと思えばいい。VOCALOIDのいわゆる聴き専間では無意識のうちにこの評判経済を構築していると考えていいだろう。

SHAREは「共有」である。本来のSHAREの理論としての意味からはすこし違うかもしれないが、二次創作・・・つまりはVOCALOIDに関するそれのメインとなる理論になるだろう。多くのボカロPは自分が作った曲を公開して「共有」している。事実、ニコニコ動画やYOUTUBEといった、現在VOCALOID曲を公開する中心となっているネット上での場を、動画共有サイトと言う。このような共有に関しては近年「共有経済」や「コラボ的ライフスタイル」といういかにもな名前をつけて経済学的な研究が進んでいる。

我々は動画という無償のコンテンツをを共有して消費することにより、多くの人々とコラボ的ライフスタイルを享受している。―動画を見ることで多くの人と感動やその空気といったものを共有・共感・共鳴しているのだと、私はこう感じた。こう思った。というのをTwitterや動画へのコメントで多くの人と分かち合った経験は誰にでもあるだろう。その時あなたは専門的にいう所の「コラボ的ライフスタイル」を達成したのだ。

PABLICというのは今最も注目されている考え方であり、そして多くの人が体験している「こと」である。そうFACEBOOKやTwitterといったSNSを利用していれば。

『PUBLICNESS』

①情報、思考、行動をシェアする行為。または、それらをシェアしている状態。②人を集めること、又は、人、アイデア、大義、ニーズの周りに集まること。③周囲とコラボレーションする為に、プロセスをオープンにすること。

Twitterをしているなら分かるだろう。あなたが鍵アカをでない限り、あなたのつぶやきは大勢の人に公開されている。その中で会話が発生すれば、その会話は大勢の人に晒されている。その中で「こういうことをしよう」という計画を話したり、「いまこういうとこまで実行してる」というのを逐一報告すればあなたのやっているなにかしらの「プロセス」は筒抜けだ。もしこれに外部からの「意見」や「感想」が付き、あなたがその意見を取り入れればそのプロセスはオープン化されていると言っていいだろうまた、TwitterではRTやFAVというものでつぶやきが注目されていることがある。それは人がそれに関して注目し、「集合」している。

この三つの考え方は、作り手にもそして受け手にも大きく影響している。それは私達、DAIMのレビュワーがレビュー(評判経済)をサイトに無償(FREE)で投稿し、共有(SHARE)するように。そして、それはTwitterでつぶやかれRTされることもあるように。
ボカロPにもTwitterでコラボを募集する人もいるだろう。今こんな作品を作ってますよと、宣伝する人もいるだろう。そしてボカロPは完成した曲を動画にして動画共有サイトに投稿する。VOCALOIDはフルセルフプロデュースが出来るといっても多くの場合は詞・曲・動画などを分担作業することが普通だろう。それら分担作業をする相手は、動画共有サイト内のつながりだけでは達成されなかった部分が多分にあるのではないだろうか。

(もちろん動画共有サイトの中のネットワーク性も注目に値する機能ではあるが。これに関して話していると原稿がいくらあっても足りないだろう。)

『メディチ現象』
さて、最後に「メディチ現象」が残っているが、これが今回一番私が紹介しておきたかった単語である。現代CGMを支える考え方として、メディチ現象はその根底部分を形成しているように感じられる。これは現代のCGMが大きく発展する前から存在する理論である「集合知」に関するが、この重要性は大きい。
集合知というのは大勢の人の意見や知識・情報が蓄積し、集約された結果、新たな情報がもたらされることである。ここでポイントとなるのは大勢の人が持ち寄るということである。またこれは複数に存在するのではなく一箇所に集約される。この集合知が生成されるためには、単一の意見や情報だけでは不可能で時には矛盾する情報もふくめ多様な情報が集合する必要がある。その中で多くの情報が精査され、情報の信頼性が向上する。
この「メディチ現象」というのはフランス・ヨハンソンが、メディチ・インパクト(2005)で紹介しているが、最近では、クレイトン・クリステンセンのイノベーションのDNA(2012)が取り上げている。以下はその引用である。

メディチ家が、彫刻家から科学者、詩人、哲学者、画家、建物家まで、幅広い分野の人材をフィレンツェに呼び集めた事で生じた創造的な爆発になぞらえた呼び名(クリステンセン2012 イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル:26)

このメディチ現象(メディチ効果)だが、これを見つけた時に私は多くの納得のいく解釈を得ることができた。集合知といったものや動画共有サイトで起きている現象を説明するのにこれほど正確な言葉はないと確信した。様々なジャンル・世代があつまり、科学・音楽・映像・哲学・経済・技術などいろんなものが融合して新しい音楽が、動画が生み出されるn次創作とそれからヒントや刺激をうけて、MMDなどが生み出される。そのために必要なのが親和性の高いコンテンツと場とルールの整備で、それらの中で中核をなしたのが今回の場合「VOCALOID」と「動画共有サイト」と「PIAPRO」だったのではないだろうか。

従来までのビジネスモデルではこのメディチ現象はCGMにまでは適用されていたとはあまりいえない。メディチ・インパクトはまだ読んでいないのだが、いわゆる今現在、一般に使われているメディチ効果というのは単純な、クラスター理論の側面が強いのかもしれない。その集積が産業によって行われるか、もしくはあくまで個人によって行われるか、そしてどのような場所で行われるかを、正確なモデリングをして検証するのは今後意味があることだと考えられる。

CGMやVOCALOIDの研究はまだ始まったばかりであり、そのビジネスの可否というのは未だによくわかっていないが、すくなくとも今何がおきているのかを正確に把握している人は少ない。すくなくともVOCALOIDはプロデューサーによる創作だけではなく、聞き手における各種の活動についても多くの観察と研究が必要である。同人音楽的側面・キャラクター的側面・技術的側面・そして聞き手の側面など考えられる切り口は多数存在する。

(同人音楽的側面については井手口章典(2012)同人音楽とその周辺 新世紀の震源をめぐる技術・精度・概念 がその探求の足がかりになるだろう。)
少しだらだらと長くなってしまったか。後のことは多くの人にまかせて今回はその「足がかり」だけを示すにとどめてここで終わりにしよう。最後に一言。

猫用まぐろ缶(巡音ルカ×猫村いろは)の良さをもっと皆は知るべきだ。

謝辞・宣伝

今回私が寄稿した原稿は、VOCALO CRITIQUE Vol.4においてBukko氏が寄稿した「『ボーカロイド文化』をどう紹介するか」を私の体験に基づき再解釈した一つの実例と言ってもいい。なおBukko氏にはこの原稿を事前に確認して頂いた。ここに感謝を申し上げる。

また、私がいままで出会ってきたVOCALOIDに関わる全ての人々に。

再三ではあるが、DAIMについて宣伝しておこう。DAIMはWeb上で公開されている楽曲、またはそれに関する作品を主として取り扱っているレビューサイトであり、現在30名程度で運営している。熱意、誠意を持って作品を紹介出来る方であれば、どなたでも参加可能である。興味のある人は、私や主宰のしまさん(@shima_10shin)まで声をかけていただきたい。

http://c-daim.tumblr.com/

画像-声と雑音の間への回顧1
画像-声と雑音の間への回顧2
画像-声と雑音の間への回顧3
STAR.ac.jp(@CANNOT_retern

※このコラムは「Vocalo Imagine」に寄稿されたものです。



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